日本人初のBMXとMTBの兼任プロ・栗瀬裕太 自らが手掛けたバイシクルテーマパークを拠点に多彩な活動を展開

多趣味だった父親の影響でBMX・MTBの虜に

「正直、僕がBMXやMTB(マウンテンバイク)を始めたころと、状況が変わっていない。だからこの自転車テーマパークを大勢の人に知ってもらい、BMXやMTBに興味を持つ人を増やしたいんです」

こう語るは、日本で初めてBMX(レース競技・ダートジャンプ)とMTB(ダウンヒル・4X・ダートジャンプの計5種目でプロライダーとして活躍している栗瀬裕太だ。現在はプロライダーとしての活動以外にも、北杜市にある自転車テーマパーク「YBP」を運営し、競技人口や認知度を増やすを増やすためにさまざまな活動を行っている。

 そんな栗瀬がBMXやMTBと出合ったのは、3~4歳の頃。音楽、ラジコン、アウトドアなど多くの趣味を持っていた父親の友人が、BMXやMTBを楽しそうに乗りこなしている姿を見て、自らもやりたいと思うようになった。「ロックやメタルなど好きな音楽が流れる中で自転車に乗っている大人たちの姿がかっこよかった。あのときの光景は脳裏に焼き付いていて、ときどき思い出します」

 小学生になるとクラブに所属して大会にも出場。しかし、思ったような結果は残せなかった。「クラブに入るにも一苦労でしたし、入ってからも周りとソリが合わないことも多く、正直、最初は外様のような感じもありました」

華麗なジャンプを見せてくれた栗瀬

華麗なジャンプを見せてくれた栗瀬

周囲から異端児と呼ばれても、自分のやりたいことを貫く!

 それでも13歳で初めてスポンサー契約を結び、プロライダーの道を進みだした栗瀬。「自転車でお金が稼げるようになったのは、初めて全日本チャンピオンになった20歳ぐらいから。それまではアルバイト生活もしていたので、正真正銘のプロとはいえなかったですね(笑)」

 大会で結果がでなくても、クラブでの疎外感があっても、自転車を嫌いにはならなかったという栗瀬。「90年代の日本では、まだBMXとMTBの両方を本格的に取り組む風潮は珍しかったんです。当時から僕は両方やったほうが楽しいと思って取り組んでいたので、周囲からは異端児のような目で見られることもありましたが、それが今の僕を作っているわけですから、両方やってて本当によかったと思いますね」
 日本人初のBMXとMTB兼任のプロライダーが誕生した裏には、栗瀬のやりたいことをとことん楽しむという精神が大きくかかわったに違いない。

栗瀬の指導を受ける子供たちが、日々練習に励んでいる「YBP」

プロもアマも一緒に走れる国内最高の設備

 もともと大阪出身の栗瀬がなぜ山梨の地で自転車テーマパークを設営したのか。そこにはあるきっかけがあった。プロライダーとして世界大会でも実績を残した栗瀬は、有名な海外専門誌に名前付きで載るという夢まで叶えていた。「僕の中では、絶対無理だと思っていた夢を叶え、この先どうしようと考えたとき、まだまだ日本で知名度が低いBMXやMTBのイベントが開催できる仕掛け人になろうと考えたんです」。

 次なる目標実現へ向け動き出した栗瀬に協力してくれたのが、長野県のあるスキー場だった。そこで栗瀬はプロライダーとして活躍する傍ら、初心者からプロライダーまでの幅広い層が楽しめるコースをプロデュースし、多くのイベントなどを開催。競技の知名度向上に努めていく。その後、ここでは世界に通用する日本人プロライダーを輩出する環境を整える事が難しい状況になり、契約していたスキー場を辞め、自分で自転車パークを運営できる術を模索し、土地探しに奔走。そこで協力してくれたのが、北杜市だったという。
「一個人が土地を借りて、何かを作ることがこれほど大変だとは思わなかった。でも、世界を目指して日々頑張っている後輩ライダーや協力してくれた多くの人たちのためにも、絶対に成功させるという気持ちは強くなった」と栗瀬。

 木の伐採などは手伝ってもらうこともあったが、ほとんど一人でレンタルした重機で山を切り開き「YBP」を完成させた。現在の施設には初心者から上級者まで楽しめるアマチュアコースに、国内唯一の高さ8mのスタートヒルをはじめ日本代表クラスのプロ選手が練習できる設備が整っている。「BMXとかを始めたばかりの子が、代表クラスの練習を間近で見ることもできるので、環境としてはすばらしいと思います」と栗瀬は笑顔を見せる。

自転車パーク「YBP」に設置されている国内唯一のスタートヒル

栗瀬がほぼ一人で作り上げた「YBP」のコース

教え子の中からオリンピック選手が出てほしい

 取材当日も、多くの子どもたちがコースを訪れ、練習に励んでいた。今では、YBPの運営、クラブチームでの指導など精力的な動きを見せる一方で、プロライダーとしても活躍している栗瀬。
 そんな彼にこれからの目標を聞くと次のような答えが返ってきた。
「まだまだライダーとして現役ではありますが、今は、多くの子どもたちに、BMXや、MTBがいかに楽しいかを実感してもらいたい気持ちが強い。だから、今、僕のクラブに通っている子の中から、プロライダーやオリンピック選手も出てくれたら、本当にうれしいですね」と栗瀬は次なる夢へ向かい歩み続ける。

▼クレジット
取材・文◎松野友克

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