ピッチ、そして社会でも通用する人材を育てるピッチ、そして社会でも通用する人材を育てる
“世界で通用するプレイングワーカーを育てるチームになる”
2018年11月に発足し、19年3月から本格始動した「FCふじざくら」のコンセプトがこれだ。
世界で通用するという言葉には、サッカー選手としてだけでなく、社会というフィールドでも結果を残せる人材という意味も込められている。2011年になでしこジャパンがワールドカップで優勝し、なでしこリーグ1部の平均観客動員は過去最高の約2800人を記録するなど、女子サッカーへの注目度は高まった。しかし、熱狂的なブームも長くは続かず、なでしこリーグ1部の平均観客動員は減少を続け2018年には約1400人と2011年の半分になってしまった。そのため、サッカーだけで生活できる選手はごくわずかで、引退後のセカンドキャリアに不安を持つ人も少なくないというのが現状だ。だからこそFCふじざくらでは、サッカーで得られた経験や鍛え上げられた精神を、ピッチだけでなく社会でも通用するような人材を育てなければいけないと考えたという。
このチーム方針に共感したのが、菅野将晃監督だ。16年の現役生活を終えた後、指導者へと転身すると、Jリーグのチームではジュニアユース、ユース、トップとさまざまなカテゴリでコーチ監督を歴任。2009年からは東京電力女子サッカー部マリーゼの監督となり、女子ワールドカップ優勝メンバーの鮫島彩や丸山桂里奈といった選手の指導も行った。2012年からは、この年に発足したノジマステラ神奈川の初代監督兼GMとして尽力し、チームを発足から5年でなでしこ1部リーグに昇格させた人物だ。
「チームのコンセプトもすばらしかったですし、スタッフからのパワーも感じられ、惹かれるものはありました。数年後、このチームがなでしこリーグ1部に上がれれば、立ち上げから2チームを仕上げたことになりますから、こんなことはなかなか経験できないと思い、監督を引き受けました」
サッカーを愛するからこそ妥協は許さない!
指導者として20年以上の経歴を持つ菅野監督が、世代を問わずに伝えていることがある。それは、サッカーと向き合うことの大切さだ。
「これまで、さまざまなチームで指導してきましたが、試合では一生懸命だけど練習は少し手を抜いたり、相手が格下で実力差が明確になっていると100%のプレーをみせなかったりする選手は意外と多いんです。でも、プレーヤーである以上、相手が誰でも、どんな状況であっても自分たちが持っているすべてを出さなければいけないんです。それができないということは、真剣にサッカーと向き合っていない証拠。そういう態度が見える選手は、絶対に使おうとは思わない」
FCふじざくらが現在所属する山梨県女子リーグ2部は、中学生主体のチームや高校のチームも含まれている。発足したばかりとはいえ、サッカー経験もある社会人が揃っていることから実力差がはっきりとでる試合もあるという。それでも、絶対に手を抜くことなく戦うことが、なでしこリーグ1部を目指すチームには必要だと菅野監督はいう。
「自分の芯には、サッカーを愛しているという気持ちがある。僕にとって愛しているサッカーをプレーしている選手たちも、愛すべき存在なんです。愛すべき人がいい加減なことをやっていたら、見ているこちらも嫌になりますから」
なでしこリーグ1部を目指し邁進あるのみ!
現在、FCふじざくらのメンバーは10人。試合のときは、ゴールキーパーを務める大学生が助っ人で来てくれるという。決していい環境とはいえないが、選手たちがこのチームに惹かれる要素は多い。キャプテンを務める工藤麻未は、「ノジマステラ神奈川相模原でお世話になった菅野監督のもとで、もう一度プレーしたいというのが入団の理由です。選手のために、あれだけ親身になって動いてくれる指導者はいないと思います。あと、仕事の環境もしっかりしていて、キャリアアップも考えてくれているクラブの理念にも魅力を感じました」と話す。一方、副キャプテンの引田ちひろは、「地元・山梨になでしこリーグを目指すチームができたことを知り、地元でプレーしたい気持ちが強くなったのが一番です。年齢的にも、最後の挑戦になると思うので、ここですべてを出し切りたい」と意気込む。
本格始動から約半年。チームとしての土台はできつつあると菅野監督は手応えをつかんでいる。「まだまだレベルアップが必要なことは間違いありません。でも、ベースはできてきたので、あとはどう上澄みをしていくか。それが見込めるだけの選手も環境も整っていると思います」(菅野監督)
選手、監督、スタッフすべてがサッカーへ愛情を持って接している様子がうかがえるFCふじざくら。彼女たちがなでしこリーグ1部に昇格という目標を果たすことができれば、日本の女子サッカー界に新たな風が吹くことは間違いない。
取材・文/松野友克