2年ぶりのインターハイ出場決定も見えた課題
5月下旬に行われた「2025年度 第14回関東高等学校女子サッカー大会」。日本航空高校女子サッカー部は、2年ぶりのインターハイ出場へ向け厳しいトーナメント戦に挑んだ。1回戦の相手は過去に幾度も接戦を繰り広げている十文字高校(東京)。そんなライバル相手に前半26分に畠中瑞季(MF・3年)のゴールで先制点を奪うと、後半にも小堀美海(FW・3年)が追加点。終了間際に1点を失うが、相手に流れを渡さぬ試合展開で見事な勝利を収めた。続く準決勝では、宇都宮文星女子高校(栃木)に苦戦を強いられるも、後半相手のオウンゴールで得た1点を守りきり2年ぶりのインターハイ出場と決勝進出を果たす。2大会ぶりの優勝を狙った鹿島学園高校(茨城)との決勝は、前半2対1とリードしたが、後半に追いつかれ延長戦の末敗れ準優勝。この結果に主将の稲川璃(DF・3年)は「初戦の十文字戦にかける思いは強かったので、勝てて本当によかった。しかし勝ったことで少し気の緩みが出てしまい、宇都宮文星女子戦はいい戦いができず、決勝も自分たちの力の足りなさが出てしまった」と振り返る。決勝で2点目のゴールを決めた横山向日葵(MF・3年)も「3試合ともチーム一丸になって戦えたのはよかったと思ます。でも決勝ではセットプレーでの守備をはじめ、相手が上回っていると感じる点も多かった。本番まではその課題をしっかりクリアしていきたい」と話してくれた。
チームを率いる堀祥太朗監督は関東大会をこう振り返る。「準決勝前に選手たちの気持ちが少し緩んでいる感じはあった。だから試合前に『まだ何も成し遂げていないよ。ここで気持ちを引き締めないと難しいゲーム展開になってしまうよ』と話したんです。やはり経験値も浅い高校生年代ではそう簡単に気持ちの切り替えはできませんので、思っていた通りに自分たちで難しい試合展開にしてしまった。そんな状況でも勝ち切れたことは大きな成長と収穫ではありました。しかし、選手たちもあの試合から学ぶことは多かったと思うので、今後に生かしてもらいたい」

稲川は、昨年ケガでプレーができない期間も長かっただけに、今年にかける思いは強い

「前線からの守備を攻撃につなげる自分たちの強みをもっと伸ばしたい」と話す横山。
選手を中心において考えるのが最も重要
今の3年生には、昨年度からレギュラーとして試合に出場している選手も多く残っている。そのため、主力の多くは昨年関東大会で1回戦敗退、昨年12月の全日本高校女子サッカー選手権での2回戦敗退という悔しさを味わった。だからこそ自分たちの代では絶対に結果を残したいという思いは強いという。「今の3年生は、高校卒業後もサッカーを続ける割合が例年以上に多く、とにかくサッカーが大好きなメンバーが揃っている。好きだからこそ貪欲に努力を積み重ね、大きく成長を遂げてきた年代でもあります。しかし、経験ある選手たちであるが、新チーム発足時は自分たちから何かを発信することや表現することを苦手としていた。課題こそが伸びしろであり、そのさらなる可能性に秘めるチカラがあると確信していました。毎日選手たちに伝え続け、今では課題が改善され自分たちの強みであり武器へ成長しています」と堀監督。稲川も「私たちの代は、もじもじして自分の意見を言わない人が本当に多かった。でも新チームになった最初のミーティングで監督にそこを指摘されました。そこから選手一人ひとりが意見を言う回数も増えているので、いい雰囲気も出来上がっていると思います」と教えてくれた。
今では、全国大会の常連としての地位を確立した日本航空女子サッカー部。この背景には、“プレーヤーセンター”を掲げる堀監督の指導方針が影響している。「“プレーヤーズファースト”ということをよく聞きますが、これは当たり前のこと。私の指導方針としては、常に選手を中心において、選手1人1人が大きく飛躍して成長へと繋げるためには、私たちスタッフだけではなく学校の先生などさまざまな視点や観点から1人1人の選手に寄り添える環境作りが必要であると感じています。中心に選手たちを添えることで、学校の先生、指導者、保護者、その他自分に関わる全ての人がどうサポートしていくのか。甘えではなく更に高みを目指すためには、沢山のサポートは必ず必要となります。こうした環境を作りあげれば、選手たちは周りにはしっかりと支えてくれる人がいるという安心感にも繋がり、毎日のトレーニングに対して力を持て余すことなく取り組みことができ、大きな成長ができ、チーム内での関係性も深まり、コミュニケーションも取りやすいと感じております」(堀監督)
日本航空高校女子サッカー部には、山梨県内はもちろん、他の都道府県からも多くの選手が集まっている。北海道出身の木村優(MF・3年)もその一人で「進学の際にいろんな練習会に参加させてもらいましたが、ここが一番サッカーに向き合える環境が整っていて、チームの雰囲気もとてもよかった。だからこそ、ここでもっと自分を成長させたいと思いました」と教えてくれた。この木村の言葉は、堀監督が目指すチームづくりがしっかりと築き上げられている証拠ともいえる。しかし堀監督は現状に満足することはなく、次なるステップへと目を向けている。「このまま全国常連で終わってはダメ。次は全国の常連から全国の常勝というレベルへ向かうためにも、私たちスタッフも含めてさらに成長しなければいけない」と力を込める。
インターハイの女子サッカー競技(開催地・北海道)の初戦は7月29日(火)、相手は関西大会準優勝で2年ぶり12回目の出場となる日ノ本学園高校(兵庫)に決まった。近年の高校女子サッカー界は、群雄割拠でどこが優勝してもおかしくない状況であることは間違いない。地元凱旋となる木村は「航空に入って素晴らしい仲間と出会えた。その仲間たちと日本一を勝ち取りたい」と決意を語った。稲川も「大好きなこの仲間としか日本一は取れないと思っている。その仲間たちに、監督、コーチ、そして応援してくれるすべての人たちと一丸となって頂点を目指したい」と話し、横山も「まずはインターハイ、選手権で日本一になることが最大目標なので全員でそれを達成したい」と前を向いた。
常連から常勝へ。日本航空女子サッカー部の次なる挑戦が、この夏幕を開ける。

「家族も応援に来てくれるので、成長した姿をみせたい」と抱負を語る木村

取材日は時折、雨が降るなど、決していいコンディションではなかったが、選手たちは高い集中力でその日のメニューをこなしていった。
取材・文/松野友克