笠井武広(ALSOK) 自分の頑張りが数字になって表れる、 それがウエイトリフティングの醍醐味

「日本一になれる」と誘われ競技を始める

「ウエイトリフティングなら、全国でトップの選手になれる」

 これは、全日本選手権男子81㎏級で過去4度にわたり優勝を成し遂げている笠井武広が、ウエイトリフティングを始めるきっかけになった言葉だ。中学校では柔道部に所属し、県大会で優勝した経験もあったという笠井だったが、「柔道を続けていても、全国で勝てる選手になれる感じはなかった」と語る。そして高校進学の時期を迎えたとき、日川高校出身でウエイトリフティング経験者だった担任の先生から、先述の言葉を言われたという。「中学の隣が日川高校で、ウエイトリフティング部が強く、全国大会で結果を残した選手がいることも知っていました。その影響もあり担任の先生の言葉を聞いたとき、自分も頑張れば全国制覇を成し遂げられるかもしれないと、日川高校へ進みウエイトリフティングをやることにしたんです」

 笠井が入学したと同時に、現在も部を率いる岡部伸二監督が着任したという。「高校時代は岡部先生と一緒になって部の伝統を守りながら、新しいことにも取り組んでいったという印象が強い。だから、高校3年のインターハイで、2位以上が確定していたにもかかわらず、ケガでジャークの試技ができず棄権したときは、先生に迷惑かけたなと思いました」。中学2年のインターハイで4位に入り、来年こそは夢の全国制覇という自信がついていた中でのアクシデント。このことが高校生活の中で最も印象深い出来事と笠井は語る。「ウエイトリフティングを始めてから、きつい練習をしていれば、絶対に強くなれると思いハードトレーニングをやりすぎていた感はあります。岡部先生からも『笠井は、ちょっとさぼるぐらいがいい』と言われていたんですが……。実際にケガをしてみて、言葉の本当に意味がわかったような気がしました」

メリハリをつけながら練習に挑むという笠井選手

努力が結果に数字として表れるのが競技の魅力

 高校で日本一になることはできなかった笠井だが、「大学では絶対に日本一になる」と決意を新たにして中央大学へ進学。大学2年のときは、全日本ジュニア選手権69㎏級で優勝し夢を実現させた。「日本一になったことで、世界大会にも出場させてもらったとき、国際試合でも勝てる選手になりたいという気持ちが強くなっていきました」と笠井。すると、大学3年のときは国体で69㎏級の大学新記録(当時)を樹立するなど、成長を遂げた。

 そんな笠井にウエイトリフティングの魅力を聞くと、次のような答えが返ってきた。「ありきたりですけど、数字ではっきりと結果が出るところ。柔道をやっていたのでわかるのですが、対人競技では相手の状態もあるので、やってきたことが成果に表れないこともあるじゃないですか。でも、ウエイトリフティングの場合は、何キロを上げるという明確なものがあるので、できた、できないがすぐにわかる。残酷な一面もあるかもしれませんが、それが一番の魅力かと思っています」

 また、メンタリティーの成長はウエイトリフティングをやったおかげだとも話す。「練習のときも試合のときも、なんか自分を試されているような気がするんです。練習がうまくいかなかったり、記録が伸びなかったりすると、どうしてもネガティブになってしまう。そういうときは、さあ、どう乗り越える?って誰かに言われている感じもあって(笑)。その繰り返しをしているうちに、精神力はアップしたと思います。

地元の子どもがウエイトリフティングに興味を持つためにも自分が活躍したいと笠井選手

2024年のパリ五輪を競技者としての集大成に!

 昨年から続くコロナ禍の影響で大会の中止や延期などが相次いでいるが、昨年12月の全日本選手権では81㎏級で2位。優勝は逃したが「調子は悪くない」と調整は順調のようだ。しかし、4月17日から24日まで行われたアジア選手権では、スナッチを3回連続で失敗し、まさかの失格。それでも、ジャークは10人中3位となる186㎏を上げ意地をみせた。

 7月に開催予定の東京オリンピックへ出場するためには、5月に参加する国際大会で好成績が求められる。「もちろん出場するために結果を残したいと思っています。そのためにも、体調管理を徹底して今の調子を落とさないようにしたい」
 悲願の東京オリンピック出場が直近の目標だが、まだまだ競技者としての道を歩んでいくという笠井。「東京オリンピックに出られたら引退とかも考えた時期もありました。でも数年前から次のパリ五輪までは頑張ろうという気持ちになっています。そこまではジャークで200㎏を上げたい。そして、自分が頑張る姿を地元の人にもたくさん見てもらって、ウエイトリフティングをやりたいという子どもが増えたらうれしいですね」

 先の目標もしっかりと語ってくれた笠井が、どのようなパフォーマンスを見せてくれるか。今後も注目して見守りたい。

取材・構成/松野友克
写真提供/ALSOKウエイトリフティング部

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