持田龍之輔(ALSOK)ウエイトリフティングをやって一番成長できたのは 地道に努力を積み上げていくことの大切さを知ったこと

恩師からの一言でウエイトリフティングの世界へ

 昨年12月に新潟で行われたウエイトリフティングの全日本選手権。男子109㎏級に出場した持田龍之輔は、スナッチ179㎏、ジャーク222㎏のトータル401㎏といずれも日本新記録で、自身6度目の全日本制覇を成し遂げた。試合後には「410㎏を上げられる力はついたと思う。自信になる」とコメント。2020年はコロナ禍で大会の延期や練習が制限される時期もあったが、久しぶりの実戦で結果を残したことについて改めて聞いてみると「調整は思った以上にうまく言ったこともあり、結果に結びついたかなと思います」と話してくれた。

 今では日本を代表するウエイトリフティング選手になった持田だが、3歳頃から中学生までは空手を習っており、中学校の部活ではバスケットボールをやっていたという。そんな彼がウエイトリフティングの道へと進んだのは、恩師との運命的な出会いがある。恩師とは現日本ウエイトリフティング協会専務理事の小宮山哲雄。ウエイトリフティング選手として日本記録も出した経験を持ち、持田が吉田高校に進んだ際、部の監督を務めていただけでなく全日本チームも率いていた人物だ。その小宮山が持田をウエイトリフティング部へ誘ったという。「監督からインターハイでトップ3に入れるぞと言われたんです。空手とかでもそこそこの成績は残していましたが、優勝はできなかった。だから1位になれる可能性があるという話をもらってすごくうれしかったので、頑張ってみようと思った」と教えてくれた。

持田は、ウエイトリフティングを通じて地道に努力することの大切さを知ったという

ケガを経験してわかった自身の視野の狭さ

 小宮山監督に秘めたる素質を見いだされた持田は、高校時代から結果を残していく。高校2年で出場したインターハイでは85㎏級で優勝、高校3年のときには94㎏級で高校新記録(当時)を樹立して2年連続での日本一に輝いた。

 ウエイトリフティングを始めてから順調に結果を残していた持田だが、日本大学進学後にスランプに陥ったという。「大学1年のとき、ほとんど記録が伸びなかったんです。練習は今まで通りにやっていたんですが、結果に結びつかず……」。大学入学後1年ほど、苦しい時期が続いたが、「大学2年ときに日本代表の合宿へ参加させていただく機会があり、そこで当時の監督さんからマンツーマンの指導を受けたことで練習を含めた方向性が明確になったのが大きかった」と持田。大学3、4年のときは記録も伸び、2015年の「全日本学生選抜選手権大会」では、スナッチ、ジャーク、トータルすべてで大学記録を更新してみせた。

 完全にスランプを脱したかに思われたが、社会人になると再び記録が伸びなくなってしまう。「大学のときに技術やウエイトの要点を自分では得られたと思っていたのですが、社会人になったばかりの頃、自分で考えてやることが難しくなってしまったんです。自分でやりたいことは明確なんだけど、それができないという時期が続きました。今思えば、大学時代は当時教えてくれた代表の監督さんにおんぶに抱っこ状態だった。壁にぶつかっても、監督が方向の修正をしてくれていたわけです。当時はそのことにも気づかず、焦りも出ていましたね」

 そんな焦りが影響してか2019年にケガをしてしまい、練習ができない時期があったという。しかし、この期間で持田の考えに変化も生まれた。「それまではウエイトリフティング場だけの練習にしか見えていなかった。でもケガをしたことでウエイトトレーニングの重要性だったり、ほかのことにも目が向けられるようになったんです」。視野が広がったことで、これまでの焦りもなくなり、ケガが治ってからは記録も伸びるようになった。

「ウエイトリフティングにおいて一番重要なのは自分の感覚」と話す持田

東京だけでなくパリを見据えて、謙虚な姿勢で取り組む

 直近の目標は、7月に開催予定の東京オリンピック。その選考会で4月17日から24日までウズベキスタンで開かれていたアジア選手権では6位(スナッチ174㎏、ジャーク215㎏、トータル389㎏)。自身の日本新に迫る活躍を魅せることはできなかったが、5月の国際大会で成績を残せば悲願のオリンピック出場を手にすることはできる。「目の前の目標は東京ですが、僕の中ではパリまで現役を続けて、メダルを取りたいと思っています。だから2024年には、順当にいけばメダルを取れるというふうに言われる選手に成長したい」と力強いコメントを残してくれた。

 そんな持田が大切にしている言葉がある。それは恩師である小宮山から言われた「どれだけ記録が伸びていい成績を残したとしても、謙虚でいなさい」というものだ。「僕自身、高いレベルにいるとは思っていませんが、この言葉を常に意識しています」。

 ウエイトリフティングで結果を残すには、地道な積み上げが一番と話す持田。今後も地道に要領よくやることが自身を成長させてくれるとも教えてくれた。壁にぶつかっても立ち直ってこれた裏には、この謙虚な姿勢が大きく影響しているに違いない。

取材・構成/松野友克
写真提供/ALSOKウエイトリフティング部

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