大学女子ホッケー界屈指の強豪で主力として活躍
昨年10月の全日本学生ホッケー選手権大会(インカレ)で3年ぶり9回目の栄冠を手にした山梨学院大学女子ホッケー部。9~11月にかけて行われた秋の関東学生リーグでは、51回目の優勝を果たした。これは1994年秋の初優勝から実に51季連続という偉業で、前人未到の連覇記録をさらに更新している。そんな大学女子ホッケー界をリードするチームで、主力として活躍してきたのが、MF尾本桜子(4年)とDF鈴木美結(3年)だ。
山口県出身の尾本がホッケーと出会ったのは小学6年のとき。「妹が友達に誘われて地元のクラブで始めて、(両親が)『妹がやるならお前も』という感じでした」という。中学卒業後は西京高校へ。親元を離れての寮生活だったが、2年時にはインターハイで8強に入り、3年時にはユース日本代表に選出された。そして、2016年の春、山梨学院大に進んだ。
「大学でホッケーを続けるなら強いチームでやってみたいと思っていましたし、高校の先生から『攻撃的なスタイルが尾本に合っているんじゃないか』と勧められたのが、最終的に山梨学院への進学を決めた理由です」
一方、岐阜県出身の鈴木は、「小学3年の頃、兄がやりたいというので、私も一緒について行った」ことからホッケー生活が始まった。強豪の各務野高校では在学中、インターハイで準優勝2回とベスト4が1回。頂点にはあと一歩届かなかったものの、2年時の全国選抜では優勝し、国体は3年間で一度も負けなかった。ジュニアユース、ユースと各年代で日本代表として数多くの国際大会を経験し、2017年に山梨学院大に入学した。
「いろいろ悩みましたが、練習環境が良かったことと、高校3年のときに王座(全日本大学王座決定戦)を見て、すごくレベルが高く攻撃的だったので、ここでやってみたいと思うようになりました」
互いの持ち味を認め、リスペクトし合う先輩と後輩
攻撃的な中盤の尾本とディフェンスの鈴木。それぞれポジションは異なるが、ともに試合に出場する機会も多く、互いの持ち味を認め、リスペクトし合っている。尾本は鈴木について、「身体を張って止めてくれるので、安心感があります」と語れば、鈴木も尾本を「まるでスティックとボールがくっついているかのようなドリブルが独特で、相手からすれば止めるのが大変です」と話す。
12月の全日本選手権では、初戦の試合中に相手のボールが鈴木の右手に直撃した。傷口が裂けるほどの怪我だったが、痛みに耐えながら最後まで戦い抜いた。鈴木は、そうしたメンタルの強さも持ち合わせている。
尾本はまもなく大学生活を終えるが、山梨学院大での4年間には様々な思い出が詰まっている。とくに最終学年だった今年度には、印象深い出来事が多いという。「うれしかったのは、インカレでの優勝です。決勝で対戦した立命館大には、7月の王座の決勝で敗れていて、インカレで雪辱するために、夏はかなりハードに練習しました。それがとにかくきつかった」
勝った喜び以上に、幾度となく悔しい思いも味わってきた。日本リーグと全日本選手権では、いずれも決勝に進みながら、実業団のソニーに完敗を喫した。ただ、一つひとつの経験が尾本を着実に成長させたことは間違いない。その成果が、秋の関東学生リーグでの最優秀選手賞の獲得だった。
メダル獲得を目指すさくらジャパンに新風を吹き込む
尾本と鈴木は、2018年11月の「SOMPO CUP 4ヶ国いばらき国際大会」で、日本代表〝さくらジャパン〟に初招集された。アンダーカテゴリーの経験が豊富とはいえ、初めてシニアの代表に呼ばれたときは、「なんで私が?」と驚くとともに、「緊張した」と口をそろえる。
ただ、昨年は、国内の合宿やFIHシリーズファイナル、その他テストマッチなど、代表活動にもフル参加し、多忙なシーズンを過ごした。東京オリンピックで悲願のメダル獲得を目指すさくらジャパンの最終メンバーが決まるのは、5月頃とされているが、現時点で2人しかいない現役学生の尾本と鈴木の存在感は、日を追うごとに高まりつつある。
さくらジャパンのコーチも兼任する女子ホッケー部のジョン・シアン監督は、2人の特徴をこう述べる。「鈴木は、代表の中では経験が浅いけれど、他の選手より走れるのが強み。オリンピックのグループリーグは、酷暑の中、7日間で5試合という厳しい日程ですし、セットプレーも含めると攻守で重要な役割をこなせる選手です。また、尾本は身長はそれほど高くないものの、フィジカルが強く、良い意味で怖いもの知らずのところがストロングポイントです」
今年1月から約3週間、オーストラリア・チリ・アルゼンチンへの遠征にも参加した。とくにオリンピックでも対戦する世界ランキング3位のアルゼンチン戦では、それぞれが収穫と課題を得て、選手としての経験値を上げた。
「今回は自分としてはパスをテーマにしていましたが、そこはあまりうまくいかず、精神的に課題が残りました。でも、対アルゼンチンという点では、昨年11月に初めて対戦したときほど、まったく通用しないという感じでもなかった」(尾本)
「自分は守備は得意ですが、ディフェンスでパスを回してから攻撃を組み立てるというプレーで、相手のプレッシャーが速いと焦ってしまい、うまくつなげない課題が見つかりました」(鈴木)
春になれば、尾本は山梨学院大を卒業し、実業団チームで新たなる日々が始まる。一方の鈴木は、最終学年として、これまで以上にチームを牽引していく役割が求められる。「実業団でも活躍したい」(尾本)、「王座もインカレも勝ちたい」(鈴木)と来季の目標は明確だが、オリンピックとなると、いまもまだ現実味がないという。
もちろん、出たいからと言って出られる舞台ではない。しかし、山梨の地で大きく飛躍した2人が日の丸を背負い、東京オリンピックのピッチを颯爽と駆け回る姿を期待せずにはいられない。
▼クレジット
撮影・文/小野哲史