結成当初の部員はわずか5人
「高校や大学の野球部を辞めてしまった人の中には、野球を続けたいと思っている人は多い。そんな人たちの受け皿になれればうれしい」
こう話すのは、上野原硬式野球クラブの部長・大西勇輝。自身も高校時代に途中で野球部を辞めた経験があるという。そんな大西部長が、現クラブを創設したのは、2016年(山梨県野球連盟への加盟は2017年)のこと。現在、クラブで副部長を務める棚橋広介に声をかけ、設立に向けて動き出した。
「大西から話を聞いたときは、正直、戸惑いはありました。でも新しいチームの立ち上げから参加できるのは楽しそうだと思い、やりましょうと返事したのを覚えています」(棚橋)
活動拠点を大西の故郷である山梨・上野原市に定め、選手集めに奔走する。しかし、思い通りに選手が集まることはなく、活動スタート時に集まったのは5人と、試合ができる人数には達していなかったという。
チーム初勝利がもたらした意識改革
選手集めだけでなく、練習する球場探しも悩みの種だった。「資金が豊富にあるわけではないので、安く使用できる球場を探すのに苦労しました」(棚橋)。最初の頃は、無料で利用可能な河川敷にも及ばない場所で練習したことも……。それでも「創設当初に、“5年後にはハマスタ(横浜スタジアム)!”という目標をモチベーションに頑張ってきました」(大西)という。
ハマスタは、都市対抗野球西関東予選が行われる会場。そこへ進出するためには、山梨県内の9チームの中から上位2チームに入らなければいけない。創部3年目のクラブには高い目標かもしれないが、目標達成へ向け着実に前には進んでいる。昨年、山梨県内の強豪チームである、甲斐府中クラブに勝利。これがチームの記念すべき初勝利となり、チームの気運は一気に高まった。
棚橋は、「県内のトップチームに勝利できたことで、ハマスタへの道が切り開かれた感じがする」と話し、副主将の小山智史も「僕がまだチームに入って1年ですけど、この間にどんどん強くなっている実感はあるので、さらに上を目指したい」と胸を張った。
ビジネス展開も視野にいれたチーム運営
目標実現へ、まだまだ課題山積の状態ではあるが、大西は絶対に下を向かない。日頃コンサルタントとして働いていることもあり、自身のクラブをさまざまな視点から捉えている。野球をプレーしたい人たちとの共有の場、地元活性化の一組織、新たなビジネス展開を生むツール……。この柔軟な考えが、チームの和を強くしているともいえる。「地域活性化を考えれば地元の人を集めるのがいいかもしれませんが、門戸を広げることで大きなビジネスチャンスが生まれるとも思うんです。もちろん、チームが強くなっていくことが前提。だから、今後もSNSを使った募集はもちろん、足を使ったスカウト活動も続けていきます」(大西)
現在の部員は24人。社会人だけでなく、大学生も所属している。「社会人の方も親しく接してくれるのでとてもいい環境で野球ができて楽しい」と小山。この3年でチームの土台はできた。あとは結果を残し、チームの存在を多くの人に知ってもらう。そのためにも、悲願のハマスタは絶対に果たさなければいけない目標となる。
取材・文/松野友克