富士学苑高校女子柔道部 3年ぶりのインターハイ制覇で金鷲旗との二冠達成を狙う

「できることを全力で」が成長につながる

 7月22日から24日に福岡県で行われた令和4年度金鷲旗高校柔道大会。富士学苑高校女子柔道部は、3年ぶりに開催された大会で2大会連続優勝を果たした。

「佐久長聖との準々決勝、比叡山との決勝は薄氷を踏むような勝利でした。しかし、大会まで良い準備ができ、一人ひとりが自分の役割を全うしてくれたことが優勝につながったと思います」

 こう話すのは、部を率いて11年目を迎える矢嵜雄大監督。現役時代は日本代表として世界選手権などに出場した実績の持ち主だ。指導者になってからは、2019年に富士学苑を史上2校目の三冠(高校選手権大会、金鷲旗、インターハイ)獲得に導いた。教え子には、今年4月の全日本選抜体重別選手権大会女子57㎏級で優勝し、10月の世界選手権出場も決めている舟久保遥香、昨年の東京五輪で柔道女子63㎏級にフィリピン代表として出場した渡辺聖未らがいる。現役時代からの経験も踏まえ、柔道の厳しさ、勝つことの難しさを知る指揮官。自身の元で柔道に励む選手たちには、「気持ち一つでできることを全力でやる」ということを伝え続け、選手としては立ち技でも寝技でも勝負できる選手を育てているという。

「高校三冠を達成したときの3年生は、真剣に柔道と向き合っている選手が揃っていて、何事にも全力で取り組んでくれました。そういう先輩たちが結果を出したのですから、今の世代にも、これからの世代にも、柔道に全力を注いでもらいたい。あと、立ち技に関しては手足の長さやセンスなど努力だけで補えない部分もある。しかし寝技は、努力すればするほど、成長しますから。それを先輩の舟久保遥香が体現してくれているのですから、後輩たちにはいいお手本だと思います」(矢嵜監督)

「最後は気持ちで負けないことが大事」とインターハイ制覇へのポイントを話す矢嵜監督

柔道に向き合うことの大切さを実感

 個人戦でも優勝を狙える選手が揃っている現チーム。なかでも、主将を務める山本海蘭(3年)への期待は大きい。小学1年生から柔道をはじめ、中学から富士学苑に通い、矢嵜監督の指導を受けてきた山本。「矢嵜監督をはじめ、チームの仲間たち、家族の支えを信じてやってきたことで、勝負どころで勝ち切る力がついたと思います」と語る。そんな山本は、3月の全日本高校柔道選手権の団体で、決勝で引き分けに終わりポイントを奪えず、チームを日本一に導くことができなかった。「昨年のインターハイでも敗れ、3月の選手権でも結果を残せなかった。その悔しさが彼女に変化を与えたと思う」と矢嵜監督。山本自身も「今年の春までは相手に合わせる柔道をしてしまう、悪いクセがありました。その課題を克服へ、自分から攻める柔道を心がけたのがよかったと思います」と振り返る。

 春の経験を生かした選手がもう一人いる。金鷲旗で初の全国大会出場を果たし、チームの優勝に大きく貢献した齊藤咲花(3年)だ。「選手権ではメンバーに入れず、サポートに徹していました。その中で、準備の大切さを改めて実感し、仲間の試合を観る中で今の自分に何が足りないのかを追求したことが、金鷲旗での結果につながったと思います」と話す。齊藤が初の全国大会にもプレッシャーを感じることなく自分の柔道を貫いた裏には、柔道に真摯に向き合う大切さを教えている指揮官の存在があったからに違いない。

「ポイントゲッターとしての役割を果たして、チームに貢献したい」という山本

初のインターハイでも持ち味である攻めの柔道を披露したいと意気込む齊藤

二冠達成ですべての関係者へ恩返しを

 2019年以来、2度目のインターハイ制覇へ意欲を燃やす富士学苑の選手たち。団体戦は、山本、齊藤に、全国高校柔道選手権の無差別級で3位となった川崎愛乃(3年)に、昨年の全国中学校柔道大会の個人戦で優勝した実績を持つ小出穂香(1年)が補欠で加わるメンバー構成で挑む。「齊藤には内股という武器を生かした持ち前の攻撃力を発揮してもらいたい。山本はポイントゲッターとして役割を果たしてもらい、大将の川崎へとつないでほしい。あとは金鷲旗で勢いに乗っている小出の存在も大きい」と矢嵜監督は期待を寄せる。

 山本は「団体、個人(女子78kg超級)で日本一」と頂点を見据え、齊藤も「必ずインターハイで勝って、監督をはじめ支えてくれた人たちに恩返ししたい」と意気込みを語った。

 「最後のインターハイとなる3年生には、後悔を残さないように最高の準備をしてほしいと伝えています。試合前には“これだけやってきたのだから、絶対に負けない”という自己暗示をかけて戦いに挑んでほしい」(矢嵜監督)

 この春、全国で勝ち抜くことの厳しさを知った現チーム。だからこそ、金鷲旗制覇から数週間後のインターハイであっても、気持ちを抜くことはないという。しかし、金鷲旗を制した力は、選手全員の自信となったに違いない。

 インターハイの柔道競技は8月6日(土)に開会式を迎え、女子団体戦は8月8日(日)からスタートし、翌日には優勝校が決まる。また、個人戦も9日(月)から始まる。団体、個人ともに、富士学苑旋風が巻き起こることを期待したい。

取材・文/松野友克

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